2018年、コロナ以前に中国で公開されていた映画をコロナ禍のなか今やっと日本で見るという、この時差。とにかく日本国内でのパンフレットが制作されていなかったようなのが残念。これでもかというほど、中国の社会問題や特徴となる要素が詰まっている。
まず本国ポスター探しをしてみると、なるほど、私が2018年まで福州に留学していたのにこの映画を知らなかった理由がわかった。本国版ポスターでは「2018.7.6」とあって、ちょうどその日、私は福州の大学付属寮を引き払って、北京に渡ったのだった。留学1年間が無事終了し、最後に北京で3、4日滞在し、それからいったん大阪に帰国したのだった。映画どころじゃなかったな……。
そのポスターが今回もやはり強烈にかっこいいのでまずはその紹介から。
デザイナーは黄海。
中国版『万引き家族』のポスターは姜文の作品や中国で大ヒットしている『我不是药神』のポスターデザインをした黄海によるもの。ちなみに監督の名前は是枝監督の直筆だそうですよ https://t.co/dW5snXbjb1
— xingfu (@siyecao) 2018年7月17日
私が留学中に見て非常に気に入った『嘉年华』もデザイン。
『薬の神じゃない!』(原題:我不是药神)のポスターラインナップはこちらのリンクで見ることができる。
※海外版ポスターはもちろん黄海デザインではないだろう。また、それ以外にも黄海デザインではないものがありそう。中国の映画ポスターデザインは多種つくられ、それぞれの俳優をメインビジュアルに起用したバージョンもつくられたりし、非常に見ていて楽しいし面白いし、そのうえ、欲しくなる。
黄海は姜文や陈凯歌の映画も手がけているし、2016年の金馬奨のポスターデザインも。『牯嶺街少年殺人事件』をモチーフにしたデザイン。
さらに、アニメーション映画監督刘健による『HAVE A NICE DAY』(大世界)の、欧米向けポスターも黄海がデザイン。
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『薬の神じゃない!』、シナリオがエンターテイメントとして強靭。これで泣かされない笑わされない人はいないのではないかと思うほど。中国文化好きとしてとても惹かれたのは、まるで韻を踏むように「礼」を表す表現がぼんぼんと出てくるところ。酒を飲む際には相手に敬意を示し飲み干す姿勢、タバコをすすめるしぐさ、医者への賄賂、性的に身体を捧げること、みかん、マスクを外す(敬意表現する)こと、等々。
映画の中では「法が必ずしも善とは限らない」と明らかに描かれている。中国では、物事の善悪とルールとを、ごっちゃにしてしまうことってそういえばあまりないのかもしれないな、と、短かった中国生活を振り返って思う。
実話を題材にしたとのことだがまだ実話に関しては調べられていない。もちろんたっぷり着色はされているのだろうと思うけれど、インドからジェネリック薬品を密輸し国内で販売し罪に問われた者をきっかけに「社会が良い方向に変わったんだ」というストーリーには心から祝いたい。(というか、これに似たような医療の問題って、日本でもあるんだろうな、とも。)
ここでは中国共産党のプロパガンダがどうのこうのということは置いておいて、中国の白血病患者にとって、少しでも良い社会に変わったことは間違いないし、それは非常に明るいテーマである。インドのジェネリック医薬品がスイスの製薬会社に妨害され、中国で代理店契約をしたこの映画の主人公とインドの薬品卸が西洋に立ち向かっていくような話でもあるから「西vs東」もたやすく想像してしまうけど。
そして、中国から見たインド、というものが少し垣間見えるのもワクワクする。
挿入されていた音楽もすごく良かったのに、調べてもなかなか全曲リストが出てこないのでまた。エンドロールを注視していると、音楽の部分の2曲ほどにハングル表示もあった。