MITEKITEN: 宮里千里さんの録音を聴く会@barよなき、DJ PIN@熱血社交場、ペナンガラン・ボーイフレンド@The Hologram City

3カ月ぶりなので「久々に戻ってきた!」という感慨深さもなく那覇入り。自分の家がなくてホテルに泊まっているのが不思議なぐらいだった。関西に戻ってきてもうすぐ5年。那覇に住んでいた期間は4年半〜5年弱程度だから、そろそろこちらに戻ってきてからの期間のほうが長くなる。けれども、今はまだ関西よりも那覇のほうが歩きやすい。生活がしやすい。極端にゴリゴリに凝った肩で那覇入りしたから「あ、そうだ、あの大好きなマッサージ屋にいこう」と電話で空きを確認して60分マッサージをお願いする。マッサージ屋や好きな食堂、好きなスーパーなどを、あたまのなかの地図ですぐに指し示すことができる。私がいかに那覇を知っていたかどうかというよりも、コンパクトな街のサイズがちょうど自分に合っていたんだと思う。今は神戸市に住んでいるが、那覇市と比べると、神戸はやっぱりでかい。歩いていたらばったり友達や知人に会うぐらいのサイズの街は、過ごしやすい。

 

「宮里千里さんの録音を聴く会〜BALI編(1985-2023)」―― アジアを読む文芸誌『オフショア』がお送りするトークイベント

語り手:宮里千里
司会:山本佳奈子(オフショア)

日時:2024年2月17日(土)19:00〜(18:30開場/21時終了予定)
会場:barよなき(〒900-0016 沖縄県那覇市前島2-13-19 前島ビル 2F)
主催:オフショア https://offshore-mcc.net/

https://miyazatosenri-bali.peatix.com/view

 

今回の那覇滞在中には「宮里千里さんの録音を聴く会」を2024年2月17日(土)にbarよなきにて主催。MITEKITENは「見てきてん」なので本来は客として行ったものをレポートするはずなのだけれど、このイベントも含めて簡単なレポートを3本プラス少し。

 

前回2023年11月に那覇を訪れた際、ひさびさにbarよなき店主のよなきさんと桜坂アサイラムで会い、その後、barよなきで2杯ほどの時間を過ごした。よなきさんの沖縄民謡や過去のレコード、そして地域の芸能についての知識や考えがとてもおもしろく、いつかよなきさんと千里さんを引き合わせたいなと思っていた。那覇に再訪が決まった時点ですぐに千里さんにイベント開催を持ちかけた。千里さんにも「よなきさんという人がいましてですね、沖縄の音楽や芸能文化にすごく明るい30代の人で云々……」と話していたので、会場は「barよなきでいきましょう」と提案。千里さんも「那覇だったら人呼びやすいからいいね」と。

主催者が那覇に不在のままイベント当日を迎えることが不安で、よなきさんにも「いや〜もしあんまり人入らなかったらすみません……」みたいなことをお伝えしていたが、蓋を開けてみたら当日券合わせて35名ご来場。当初は「まあ20数名ぐらいだと大成功」と考えていたのだけれど、予想を10名以上も超えて来場があり、barよなき、ぱんぱんの満員でした。盛会。感激。ありがとうございました。まるでライブハウスのドリンクカウンターのように、バーカウンターに行列が。一人で手際よくさばいてくれたよなきさん、本当に疲れたと思います…ゆっくり休んでほしい! また、率先的に立ち見を選んでくださった若い世代のみなさんも、本当にありがとうございました。足が腰が疲れていないか心配です……。

千里さんの今回のテーマはBALIということで、1985年から2023年までのバリ島訪問時に録音した音源を聴かせていただいた。ポータブルのオープンリールレコーダー・プレイヤー(NAGRA製)も持参していただき、オープンリールの音も聴くことができた。オープンリールの音の奥行きがすばらしかった。ケチャや、口ガムランガムランを演奏する家族たちが、子供たちとともに口でガムランの音を真似して練習するもの)をオープンリールで聴かせていただいたと記憶しているが、マイクが置かれたところから一番近い音はもちろん大きく聴こえる。そのマイクを囲んでどれぐらいの距離にどのような音があるかが、視覚となって見えてくるような音だった。

千里さんの採音機材は、ここ十数年で完全にデジタルに変わっている。最新2023年の録音はZOOMのデジタルレコーダーで録音されたもの。バリ島での2023年の祭祀のデジタル録音は、これはこれで、ほんとうに「現代」の音像だった。もちろん、インドネシア語やバリ語がわかれば、「どれぐらいの年代の録音か」がはっきりとわかるのだろうが、私のようにいっさいインドネシアの言語を理解しない者にも「なるほど、現代の音をしているな」とわかる。あの音像の違いの不思議。ひとつは、2023年の録音には、その録音対象の祭祀がPAシステムを導入していたこと(マイクで話す人がおり、それが少しエコーを効かせてPAされている)もポイントだと思うが、ほかにも、何か「現代の録音である特徴的な何か」があの録音には含まれていたのではないかと思う。今度千里さんに会ったときその話をしてみたい。

宮里千里さんの盟友である大工哲弘さんの若かりし頃の歌声やお姿、十八番のダジャレについてのお話なども、非常におもしろかった。

 

ちなみに、今回いくらか(千里さんご本人にも笑)「イベント名に〝さん〟はいるのかどうか」と聞かれたことがある。私としては、この〝さん〟が結構大事。まず、私はイベント名を決める時にぜったいにリズム感や語呂がよくなければ採用しない。「宮里千里の録音を聴く会」よりも、あえて2音付けたして「宮里千里さんの録音を聴く会」として、10・5・4というリズムにしたかった。8・5・4はなんだか違うんだよな〜。でも琉歌のことを考えれば8のほうがいいのかもしれない?

あと、集客や当日の座組みの相性等、自分が主催でコントロールしていくなかで、自分という主体が結局大事になってくると思っている。主催者の影や姿を消そう消そうとしても、アリーナやドーム、ホールクラスではない小さなイベントであれば、どうしても主催者の「キャラクター」が見えてしまう。私は、変に隠すのではなく、オープンに「私・山本が千里さんをお呼びしてやりますよ」というスタンスでやったほうが、来場しやすくなる人もいると思っている。(私のことを嫌いな人は来場しないだろうけど・・・)まあ、このあたりは、ZINEとかいうものがごく一部のコミュニティの中でしか受容されないことと似ているかもしれない。30名や50名ぐらいまでの規模でやるなら、私は、「自分がやってます」と言ったほうが人に訴求できると考えているし、ならば、普段の私の呼び方で「千里〝さん〟」としたほうが自然に展開できる。

 

ちなみに、また次回があれば、私自身は「宮里千里さんの録音を聴く会」というタイトルを引きずっていくけれども、今後若い人が(若くない人ももちろん)千里さんの録音を聴く会をどんどんやってほしいと思っている。イベントタイトルも、それぞれの主催者が考えたものになればおもしろい(もちろん使ってもらってもOK)。『オフショア』をつくるときにも考えているが、私は自分を主役としたコミュニティをつくろうとしているわけではないし、誰かのプロデュースやディレクションをしたいわけでもない。絶対に囲ったりしないし、「私はよく知っています」みたいな顔もしたくない。そもそも私はまだまだ沖縄を知らない。あの日来場してくれた我々世代の人が、また千里さんをイベントに引っ張り出してくれたらいいなと思っている。千里さんから「最近いろんな人に声かけられて忙しい」なんてボヤキが出てきたら最高だなあ、と思っている。

 

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これより以降は純粋に客としてのMITEKITEN。

@NEKKE2 2024年2月17日(土)

DJ HIKARU  (BLAST HEAD)/DJ PIN/K-BOMB(BLACK SMOKER)/OLIVE OIL   (OIL WORKS)/POPY OIL   (OIL WORKS)/OWLBEATS

 

千里さんのイベントが終わり、ご来場のみなさまの送り出しが終わり、ホッとしながら千里さんと、会場に残ったお客さんやbar営業のbarよなきに訪れた人らと少し話す。その流れで、「あ、熱血(NEKKE2)でPINさん始まるよ!」となり、23時からのPINさんの出番に合わせて熱血社交場へ。

3月で立ち退きのためなくなってしまう熱血社交場、私にとっては最後の訪問となった。私の目には「地獄」と映る、土曜深夜の那覇国際通り、ドンキ前、むつみ橋付近。見逃しそうな真っ黒の小さな扉をあけて地下に降りるとある熱血社交場。馬鹿騒ぎの観光客があふれる国際通りの片隅にある、那覇のカッコいい音楽好きたちが遊んでるハコ。私はあまり普段クラブには行かないが、那覇ではLOVEBALLと熱血には時々行っていた。クラブと少し距離の遠い人も行きやすい、音楽にストイックな場所だった。闇に吸い込まれていくようなドアとか階段とか、暗すぎるフロアとか。一人で音楽だけ聴きに行ってもぜんぜん構わないクラブ。いい場所だった。

DJ PINは私が那覇でもっとも尊敬するDJなので、数年ぶりにPINさんの音楽を聴けたこと、感無量。PINさんの頭のなかでは、レコードに吹き込まれた既存の音楽がどのように分解されて、どのように再構築されていくのだろう。一度聴いたものは、すべて記憶しているんじゃないかと推測している。

 

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「疾奏」@The Hologram City 2024年2月18日(日)

疾刃/ベナンランボーイフレンド/SOW THREAT/critical thinking/space grinders

 

ペナンガラン・ボーイフレンドをThe Hologram Cityで見る。前回2023年11月に那覇に来たとき、桜坂アサイラムで見るはずだったバンド。少し遅れて会場に着くと「もう終わりましたよ」「僕らライブ20分間が限界なんですよ」と言われて落胆していたので今回こそは見逃したくないと思い、事前に出番の時間を聞いて会場へ。

すでに7inchは入手して聴いていたが、「2024年にこんなに潔いハードコア・パンクがあるなんて!」という感想だった(曲はだいたい2分程度で終わる)。ギターアンプに直挿し(エフェクター類一切なし)の米田くん、立ちドラムでエフェクターも使いつつ、ギターアンプとベースアンプも使うヘビさんの2人組。ヘビさんが結構凝ったことをしていて、さすがの創作性に唸る。米田くんもヘビさんも、音楽を本当によく知っていて研究熱心だと思う。米田くんはファンファーレというバーを経営しているし、ヘビさんは怪奇倶楽部というバーを経営している。その両店の主がこういう潔いハードコアバンドを組むということの文脈のほうについつい目を向けてしまいがちだけれど、出ていた音が楽しくてよかった。

 

 

ペナンガラン・ボーイフレンドの後、間に合いそうだったので「池間由布子と無労村」も観に行く。フライヤーを描いた方が、前日の「宮里千里さんの録音を聴く会」にも来場してくださっていたのがうれしかった。ひそかにファンである「黒井の日記」に書かれていた情景が生々しくて、黒井さんの気持ちもよくわかるだけに、観るのがちょっと怖いような気もしていたけれど観てよかった。雑念や周囲のノイズ(音のノイズという意味ではなく)が一切入らない状況で観る・聴くことができるといいんだろうな。

前日、このバンドのドラムの和田さんと会って「ペナンガラン・ボーイフレンドの後に、間に合いそうだったら観に行きますよ」と私が言っていたので、前売りで受付に取り置きしてくれていたらしい。「名前書いてたのに」と言われてハッとした。私は当日券しか頭になかった。

 

宮里千里著『沖縄あーあー・んーんー事典』(2005、ボーダーインク)で、【と】のなかのひとつの項に「当日券文化」というものがある。下記に引用する。沖縄でイベントをやっていると、これは本当によくわかる。沖縄は、今も圧倒的に当日券が強い。「さすがにこれは絶対売り切れるよ」っていうイベントはみんな予約なり前売り券を買ったりしているけれど……。

 ここで話題として取り上げたいのは、沖縄の人間はよっぽどのことがない限りは前売り券を買い求めないということである。なぜなのだろうか。安く手に入るし、それと確実に、場合によってはいい指定席も手にすることができるはずだのに。
 ここでわかったことは、沖縄の人間は予定を立てるのが苦手というよりは、あえて予定を立てない手法を選んでいるところにある。ひょっとして、予定の日に誰か親戚の人とか会社の人の葬式があるかもしれない。場合によっては職場の飲み会があるかもしれない。急に恋人ができるかもしれない、などなどの理由で、結局はキャンセルするよりは少々は高くついても当日券を買うことに。

私も予定を立てないほうが心地が良くて。たとえ500円高くても。もしかしてこれって、沖縄だけじゃないんじゃないでしょうかね? それか、私が沖縄に慣れちゃったってことでしょうかね? 千里さん。