今後のOffshore(海外交流プロジェクト)を予測する

 少しお金が貯まれば日本以外のアジア、特に中国語圏へ行く航空券をポケットマネーで買い、現地の音楽やアートの情報を集め、実践者に取材をし、それをウェブサイトで記事にするということをやってきた。2011年頃から続けていて、平均して年に3回くらい、出国していた。

 

 2020年4月末頃から12日間ほど北京に滞在する予定だった。今回は、北京の音楽家や、かつて欧米諸国が中国へCDやカセットテープをプラスチックリサイクル用廃棄物として売っていた「打口(dakou)」文化について、取材しようと思っていたが、日本と中国が、いや、世界中の国々が互いに出入国制限を設けるニュースが出始めた3月下旬ごろ、航空券をキャンセルした。

 

 さすがに秋頃には、冬頃には、また飛行機に乗って海外に行ったり、海外から来る人がいたりして、私たちの草の根国際文化交流は再開できるのではないか。ほんの少しそういった希望も持っているが、ものごとを悪い方へ悪い方へ考えてしまう性格なので、楽観視していない。また、今回に限っては、悪い方へ考えておく方が、冷徹に未来の現実を捉えられるのではないだろうか。と、自分にネガティブな考え方をすすめている。

 

 以下、完全なる私的予測展開の記録であり、検証や裏取りはしていない。読む方は注意してほしい。希望を見たい方、不安になりたくない方は、読まぬが吉。

 

 また、現在の私の取材対象は主に中国となるので、以下、中国と日本の往来について考えたことを基としている。

 

ビザの問題

 中国籍の者が日本へ観光でやってくるには預金証明などを添え観光ビザを申請し、クリアした者のみがビザを手に入れることができた。が、反対に、日本籍の者が中国へ観光目的で行くには、15日間以内であればビザ免除となっていた。私は日本籍を持っていて、よっぽどのことがない限り15日を超えて滞在することがない。これまで中国へ行くには、ほとんどビザ免除の状態で入国していた。現状、この措置が中国側から「一時的に停止」されている。(※下に外務省ウェブサイトのキャプチャ画像を添付する。)

 

外務省 海外安全ホームページ

www.anzen.mofa.go.jp

 

f:id:yamamoto_kanako:20201123191129p:plain

スクリーンショット 2020-04-07 11.59.57

 

 ものすごく良好とは言えない中日関係。日本国籍の者に対して、中国政府が15日間以内観光滞在のビザ免除を再開してくれるのは、いったいいつになるだろうか。無論、日本対他国で考えた場合も、日本のパスポートが以前ほど無敵に「ビザ免除」で通用する日がすぐ戻ってくるとは思えない。まずは感染症流行が収まることが第一である。感染症の流行が収束し始めたら、おそらくどの国においても、日本国内の感染状況を見ながら段階的に緩まっていくのだろう。

 

 中国の場合、商用やビジネスに関わる訪問、例えばアーティストが招聘された際の訪問、そして研究者などの訪問などは就労ビザを取得することになっていた。これらの就労ビザに関しては必要性が高いので、収束が見えてきた頃に発行再開されるだろう。

 

 しかし、私のような、ただの一観光客がビザ免除で中国に入国できる日が遠い気がしてならない。観光客をビザ免除で受け入れるということは、少なからず、また感染症が入ってくるリスクを伴うことである。また、中国にとっては、日本国籍をもつ観光客から莫大な金を落としてもらっていたわけではない。今この感染症に対するワクチンがまだ開発されず不安な状況が続くなかで、中国が真っ先に日本国籍をもつ者の15日間観光滞在ビザ免除を解禁するなんて可能性はない。付け加えれば、日本は中国籍の者に対して観光ビザを免除していない、ある種アンバランスな関係だったのだ。

 

 もし、就労ビザ発行は再開されても観光ビザ免除での入国が叶わない(もしくは観光ビザの取得も叶わない)状態が続いた場合、私はどのような選択をするべきだろうか。

 

1)就労ビザを取るのは大変なので諦める

2)大卒資格を取って研究に昇華させ、就労ビザ渡航する

3)何かしら中国に住みながら働くことのできる職を必死で探し、日本を去り中国に移住する

4)文化庁の海外研修制度や国際交流基金に助成申請書を提出し、日本の文化に貢献するプロジェクトとして組み直し、助成決定の後、就労ビザを取得し中国を訪問する

 

 そもそも現時点では、世界各国が鎖国している。第4案においては可能性が見えない。フィジカルな移動をともなう、国境を超えた国際交流ができないのが今現在である。文化庁国際交流基金、また各国・地域の交流協会基金は、今年度以降の助成プログラムの枠組みを、どうするのだろうか。

 

航空運賃の問題

 多くの航空便が運航停止となるなかで、いくつの航空会社が生き残るのだろうか。私や贅沢旅を求めない者が愛用していた日本発着LCCは、たとえ会社が生き残ったとしても、海外路線を続ける体力が残るだろうか。

 利用する者が減れば航空運賃は上がるだろうし、何十年も前のように、金持ちしか飛行機に乗れない時代が、このコロナ禍の後にやってきそうである。

 

────────────

 

観光の時代の終わり

 ビザの問題、航空運賃の問題を考えるに、自分のポケットマネーで私的なプロジェクトとして続けていくことはなかなか難しそうである。草の根の国際交流プロジェクトや人の越境によりもたらされた相互理解が進まなくなり、選ばれし者が選ばれしタイミングでしか、海外に行けない時代。そんな時代が来るかもしれない。

 

 新型コロナウイルスが中国で猛威をふるい始めた旧正月(1月下旬)の頃から、ぼんやりとこれらのことを考えていた。これは、フィジカルな国際交流の限界地点なのかもしれない。環境問題やオーバーツーリズムの問題を考えた時にも、大量の人が短期的に移動する限界点だったのだと思う。これからは、フィジカルな国際交流にとらわれるな、新しい国際理解のしくみを考えろ、という、自分への課題なのかもしれない。そう考えると、新しいなぞなぞを出されたようで、とても前向きな気持ちになる。

 

 自分の足で取材地を歩き、空気を吸い雰囲気を感じ取り、対象者と直接会って言葉を交わし、ある程度の関係性をつくってからインタビューを取る。そういうルーティンで、とにかく「足で稼ぐ」を実践していた私の基本が狂うが、ZOOMやSkypeを利用して記事の内容を基本情報のインタビューのみに留めるというのも、今後の選択肢のひとつかもしれない。幸いにも、すでにお互い顔見知りでありながらもまだインタビュー記事を書けていない中国在住アーティストはたくさんいるので、メールやWechat、あらゆるオンラインツールを駆使すれば、まだまだ記事を書くことができる。というか、あれこれ悩む前にそれをまず実践することが第一だろう。

 

 それに、どれだけ足で稼いで空気や雰囲気を感じ取ったとしても、完全に分かり合うことなんてできていなかったのである。母語の違い、使用言語の違い、習慣の違いに文化の違い。歴史の違いに国家の違い。全てが違っていて、本来は「似ている」「同じ」なんてことがなかったはずなのに、頻繁に航空機で空を飛び目的の地に降り立ち、そこで文化的な生活を送る人たちにいとも簡単に出会えることで、日本で暮らす自分と自分の周囲を勝手に投影していた。そして「分かり合えている」と思っていた。ちょっと傲慢だったと思う。

 

 ここで私を冷静に中国と日本以外のアジアから、物理的にも心理的にも引き離してくれた今回の感染症は、ひとつのリセットのポイントだったと、後から遡ることができるだろう。これまでの、「とりあえず飛行機乗って行ってみる」をあきらめる。

 

 観光の時代は終わった。誰もが旅行客になり、誰もが異民族の文化を消費し、たくさんの現地特派員や旅行ライター、コーディネイターが生まれ、世界中に、世界ウルルン滞在記のようなエピソードがごまんと生まれた。自分も、そのエピソードを捻出してきた一人である。一度ここで熱を冷まして、自分の取材と執筆活動の真髄を問い直し、「飛行機に乗らなくても」「越境しなくても」成立する活動に変換しておこうと思う。

 

 

 まあいろいろと書いたが、数ヶ月後にはガラッと世界が元どおりに戻っていたとしたら、その時には、この記事と私の心配性を笑ってほしい。

 

 

2020年11月 noteより移行