5月第一週の中国演劇界のニュースについて(史航事件と2つの演劇祭と)

午前、中国の大きな国際演劇祭「烏鎮戯劇節」(Wuzhen Theatre Festival)の開催日時発表のニュースを見て少しワクワクしていたら、同時に、中国演劇界のベテランで重要な脚本家・演劇作家、史航による性加害のニュースをweiboで知る。

Twitter上にはできるだけツリーで連なるようにしてあとから自分も見返せるように書いたつもりだけれどなんだか話題が散乱しているのであらためてまとめる。

 

まずは、烏鎮からのニュース。第10回を迎える烏鎮戯劇節の開催日と委員の発表があった。

www.wuzhenfestival.com

 

驚いたことに、委員に孟京輝がいない。中国のベテラン演出家である孟京輝と、ベテラン俳優の黄磊と、台湾の巨匠クラスの演出家である頼声川が3名で立ち上げたのが烏鎮戯劇節なのに。孟京輝は阿那亜戯劇節(Aranya Theatre Festival)の主要メンバーになっており、今年からこちらに専念するのだろうか。ちょっと残念なのは、この孟京輝こそが、篠田千明『ZOO』を東京だったか横浜だったかに見に来て買い付けて烏鎮に呼んだ人なのである。つまり、ちょっと変わった現代的な、客席に座らせなくても前衛的でも受け入れてくれるような委員メンバーであったのだけれども……。

 

ちなみにこの阿那亜戯劇節(Aranya Theatre Festival)は、パソナが目指した淡路島?といえば印象悪いが、まるまる、企業が土地ごと買い取った秦皇島市付近のリゾート地っぽい。烏鎮もそういう街だったが、ウェブでしらべていろいろ見てみる限り、その「地域ごとぜんぶ観光地にしてしまう」気合と勢いが烏鎮とは比べ物にならないような気がする。中国の観光開発はここまできた……という感じ。いつか、あの烏鎮の筆舌につくしがたい浮ついた雰囲気と風景も、きちんと言葉にしておかなければと私自身も気合を入れる……。

 

阿那亜(Aranya)のウェブサイト

www.aranya.com.cn

 

そして阿那亜戯劇節(Aranya Theatre Festival)のエグゼクティブプロデューサーには俳優の章子怡チャン・ツィイー)の名前も。2023年の開催はまもなく、6月。日本からは宮城聰演出の『人形の家』が招聘されている。他の作品も、結構デカそう。烏鎮のように青年コンペ枠はない。

 

烏鎮に話を戻すと、今年の開催はいつも通りの10月で、ついに10回目となる。孟京輝のいない委員メンバーだが、青年コンペ枠の委員にはいつもどおり黄磊と頼声川、そして私も全エピソード視聴した中国の演劇リアリティショー「戯劇新生活(戏剧新生活)」で活躍していた役者で劇作家の呉彼。映画界からは、評論家の周黎明、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』監督の程耳。青年コンペ枠ではなく、(今年はおそらく海外勢も含めた?)全体のラインナップの招聘に関わる芸術委員が有名俳優や有名アーティストが増えたような気がする。そして外国人はやっぱり減ってるよね(コロナのせい?)。俳優の周迅、黄渤、娄燁(ロウ・イエ)作品によく出る郝蕾(ハオ・レイ)。現代美術作家で中国に行ったことのある人なら誰もが作品を見たことのあるであろう岳敏君。有識者というよりも有名人が多いが、それでも、大きなひとつの分野から選んでいるという基準は崩れていないようには思う。

 

今年も行けないとは思うが、またいつか、中国の演劇祭には再び足を運んでみたい。

 

「戯劇新生活(戏剧新生活)」については過去にこのブログで書いたのでこちらを。

 

 


 

さて、その烏鎮演劇祭も常連で来場していて、烏鎮の創立メンバーである孟京輝とも何度も共同で作品をつくってきた脚本家の史航。彼が女性に対して行ってきた性加害のニュースが、このメーデー休暇に中国のweiboをにぎわせている。

 

史航といえば、さきほどもあげた中国の演劇リアリティショー「戯劇新生活(戏剧新生活)」にも登場している。役者たちが演劇をつくりあげるなかで煮詰まった際にアドバイスしたり、ドラマトゥルク的な役割で少しだけ出てきていた。演劇評論もしている。中国の演劇といえば、この人の名前が、まず出てくる。

 

篠田千明『ZOO』を2018年に烏鎮で上演した際、私が制作でついていたのだけれど、当時の私はまったく中国の演劇界を知らず、現地でのゲネや本番にたくさん来ていたであろう役者や演出家や関係者をキャッチできていなかった(そういう人を捕まえて感想でも少し聞きたかったけれど)。今であれば、私は自分のレーダーにより中国の演劇界要人を現地でキャッチして、営業をかけにいったのだが……残念。当時は知識不足だった。そんななか、随一、上演後にネット上で『ZOO』を評価してくれてたのが史航だった。彼による一人語りの烏鎮振り返り動画において、「観客が動いてもOK写真を撮ってもOKなんていう設定を利用した作品もあったんだ、日本から来た『ZOO』という作品」というほんの一瞬のコメントだったけれど。まあ、だから、そういうありがたく感じていた人物が、性加害をしてたということなら、大変ショックなのである。

 

中国で話題になっている記事で読んだのはこのあたり。

 

我要WhatYouNeed 「史航们,那个时代已经过去。」

https://mp.weixin.qq.com/s/XfjukACiprPe9n9UWq9tOg

私がこの記事タイトルを訳すなら、「史航の同類たちよ、その時代は過ぎ去った」だろうか。

 

小黙「关于史航的“小作文”」

https://mp.weixin.qq.com/s/8RGdaNlzMQoqT4Y3-prE5Q

告発者のひとりである小黙による、詳細な告発文。

彼女は子供の頃から史航の脚本の番組を見ており、彼の作品のファンでもあって、社会人になってテレビ業界で働き始めていた。20代前半、彼女のキャリアがスタートしたばかりの頃に、無理やり史航の「恋人」のようにされてしまった経緯が詳細に綴られている。しかも、その語りが非常に重々しいのは、ふとすれば、少し前の時代とか、テレビや映画の設定でよくみられる且つ"愛嬌"ともされるような行為への批判。確かに暴力で身体を押さえつけて捩じ伏せているわけではなく戯れのような態度であったとしても、環境的に相手を追いこむというのはどういうことかという論理を、的確に指摘している。「てめえはこれがセクハラだと認めないというが、恐怖だったし、あの場面で意思表示できないように追い込んでるのは、そもそもてめえだろうが」という気迫がすごく感じられる文章。日本語訳できるほどの中国語力と時間がないので残念だが、みんな、読んでほしい。一部紹介すると・・・。

彼女は、偶然知り合った(もちろん憧れでもあった脚本家の)史航と3回目に会った時に、性加害を受けた。史から呼び出された彼女は、「グループで映画を見る」という約束だった。場所は、北京にある素晴らしい映画資料館で、彼女も何度も重要な作品を観た大好きな場所だった。史航が特別に映画を見せてくれるとのことだった。シアターで映画が始まると、史航が彼女の耳元で囁き、彼女の手に触れてきた。彼女は硬直。彼女が真っ先に考えたのは「ここに自分の同僚や知っている人がいたらどうしよう、ここで抵抗して、こんなところを見られれたら、”え、小黙って史航と付き合ってたの?”って言われかねない」という心配、不安。史にタクシーに乗せられて家まで帰る途中も、耳を吸われ、スカートの中に手を入れられ触られる。その時彼女は「私がここで拒否したとして、タクシー運転手は、私がマジで拒否してるって思ってくれるだろうか?」と考えてしまう。

また、彼女は業界において史航を知らない者がいないという圧倒的な権威をもつ向こう側の優位性も指摘する。「この業界では、全ての道は史航につながってしまってるんだよ!」と。

 

以前からも中国ではMeToo的な話題は頻発しているが、今回は、「何が性被害者を不利にさせているのか」についてこの小黙さんがしっかりと発言している。中国のMeToo的な言論がより深化していきそうな予感。日本においても参考になることがありそうな気がしていて、期待。