オフショア第一号・こちらが執筆者のみなさんです👉

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さて、8月1日(旧暦7月4日)、目標としておりました創刊日になんとか創刊できたということになります。現在、オフショアのオンラインショップでも購入受け付けておりますが、各地の書店の皆さま!ぜひ、店頭で販売していただけるとうれしいです!SNSを使わない人、ネットを普段見ない人にも届けたい。

 

それでは執筆者紹介

まず、「創刊号はこの人に書いてもらわなければ始まらないでしょう」と原稿依頼した宮里千里さん。エッセイストで民俗祭祀の採音技師でもあり、イザイホーや各地のエイサー、アジア各地の祭祀や2002日韓W杯まで(!)録りためた音にはもう途絶えた祭祀やそこでしか発生しなかった音も多く含まれます。千里さんの著作『アコークロー』や『シマ豆腐紀行』(両作ともボーダーインクより出版)は、うかつに外で読んでいたら吹き出してしまうので危険です。今回、千里さんには奄美とバリ、そして沖縄をつなぐエッセイを書いていただきました。奄美の中村瑞希さん、マリカさん、中孝介さんらのバリ島での録音。そして、先日「ちむどんどん」で上原照賢を演じた大工哲弘さんと大工苗子さんもしっかり登場。大工さんの大胆さがもう……!1980年代のバリ島、見てみたかった……!

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さてここからは五十音順に。

作家の太田明日香さんには、日本語の先生という立場から詩を2篇寄せていただきました。ぜひ、じっくり味わってほしいです。現在の日本における外国人受入の状況は問題山積ですが、留学生たちが日本語を学ぶ教室の風景が想像できたとき、それらの問題がより身近に、より立体的に感じられます。

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紅坂紫(こうさかゆかり)さんは執筆陣では一番若いのですが、堂々たる濃厚な短編クィアSFを寄せていただきました。飾り気のないように見えて、読み込んでいくうちにどんどん引き摺り込まれていくような文章。何回読んでも噛みごたえのある、こんな文章ってある?と思いながら何度も編集作業中に読み耽りました。しかも、紅坂さんのキレのある文体は確立されていて、毎日書いていらっしゃる800字エッセイも読めば読むほど読みたくなる。紅坂さんの他の作品や翻訳作品(とくにシンガポールジョイス・チングによる短編SF『まめやかな娘』の翻訳は素晴らしいです)もぜひチェックしてほしいです!

6kurenai1yukari.tumblr.com

 

雑誌「トラべシア」発行人の鈴木並木さんにもエッセイを寄せていただきました。一番最後に収録させていただきました。何重にもかけられていく仕掛けというかマジックというか、あっさりと書いているように見せかけて、日本のアジア観に対する重要な指摘が散りばめられている、と、読んでいます。どうしてもこれで1冊の最後を私の代わりにまとめていただきたい、と思ったエッセイです。

travesia.booth.pm

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打って変わって得能洋平さんのエッセイは、これを創刊号の冒頭に掲載させていただき、私を代弁していただきたい、と思ったエッセイです。つまり、得能さんのエッセイと鈴木さんのエッセイで『オフショア第一号』は挟まれていることになりますね。得能さんが書いていらっしゃるエッセイは、ときたまネットニュースでも話題になる西成の中国人経営のカラオケスナックと福建省が起点となります。ぜひ参考文献として掲載したオープンアクセス論文にも注目していただきたいです。

 

 

そして、五十音順の順番が前後しましたが、自主発行する「馬馬虎虎」がロングヒットしている檀上遼さんには「聞き書き」に挑戦していただきました。軽快なファミレスでの対話が「工場の李さん」を脳内でアバター化してくれるようです。ここで話される過去の台湾と日本の関係、そして日本のバブル期。特にバブルを味わえなかった私には(檀上さんと同い年)なかなか感慨深いです。

ryodanjyo.com

 

それから、ローカルメディア研究者である和田敬さんの論考。和田さんは、実際にローカルメディアであるミニFMの実践者であったとのことです。「台湾における市民による地下メディア実践と民主化との関係――1990 年代の台湾の地下ラジオ運動を軸として」というタイトルです。つまりは台湾の地下メディア実践を見ていくことで、日本でのメディア実践を考えることになります。まさに私は個人メディアを立ち上げて、大手にできないことばかりを考えてきました。そんな私の出自は、インディー音楽の裏方(ライブハウススタッフ)だったのですが、台湾の地下メディアにもインディー音楽が深く関わっていることに、とてもうれしくなりました。連載で全5回。次回以降も必読です。

 

最後に、私が構成した「dj sniffインタビュー『平行的玉音軌』ができるまで――リサーチと思考、作曲の過程をトレースする」も大推薦。
dj sniffは日本に統治されていた時代の台湾を生きた台湾人と出会い、台湾での玉音放送の受容や、玉音放送の録音・再生を担った技師(日本最初のターンテーブリスト!?)についてリサーチ。それらをもとにつくりあげた音楽と英語ブックレットからなる作品『平行的玉音軌』は2022年3月発売となりました。日本以外のアジアへリサーチにいって作品をつくるとき、日本で育った私たちが必ず向き合わなければならない過去の侵略の歴史、搾取してしまう構造についても話題が及んでいます。また、最近何かと研究者の方々に読んでいただいているウェブマガジン「Offshore」でしたが、アカデミアと創作の関係みたいなところもdj sniffこと水田さんに語ってもらっています。実は、校了してからあの安倍元首相銃撃事件があり、水田さんも私も、再度読み直し再度校正作業をしました。編集者である私は「本というメディアで他者と自分の発言を誰にでも参照できるよう残すこと」の重大さを実感できました。

discrepant.bandcamp.com

 

表紙デザイン・イラストについて

表紙のかわいらしいツバメを描いてくれたのは北京在住の刘璐(リウ・ルー)。デザイナーであり、イラストも描いていて、かつ、Kaoru Abe No Future(阿部薫没有未来)という実験ロックバンドのメンバーでもあります。「Offshore」と私が自分のメディアに名付けた理由を説明したところ、「外海(Offshore)に出るけれども、また戻ってくる渡鳥の"ツバメ"」を描いてくれました。

そして表紙デザインとタイトルロゴは、三宅彩さん。2011年頃だったか、タイの情報関連でお知り合いにならせていただき、最近は、三宅さんの出身地である神戸市に私が移住したこともあり、よく神戸の新開地〜湊川情報を交換させていただいています。私が夏に着ているTシャツは、だいたい三宅彩さんデザインです。Tシャツこちらから買えます!

noladyswears.theshop.jp

 

 

元々SNSで発信しようと思いながら書いたテキストなので散漫となってしまいましたが、ご購入、仕入れの参考にしていただけましたら幸いです。書店の方は版元ドットコムから書誌情報をご覧ください。 

https://kaiin.hanmoto.com/bd/isbn/978-4-9912649-1-7


現在お取り扱いいただいている店舗は以下。まだまだ増やしたいです!

 

取扱店舗(順不同。2022年8月1日時点)
関西:1003(センサン)、パララックス・レコード、CAVA BOOKS、ホホホ座浄土寺店、Calo Bookshop & Cafe、恵文社一乗寺店、誠光社、とぅえるぶ、奈良 蔦屋書店
沖縄:くじらブックス&Zou Cafe
北陸:石引パブリック
関東:PEOPLE BOOKSTORE、ポポタム、IRREGULAR RHYTHM ASYLUM、よもぎBOOKS、mychairbooks、loneliness books(オンラインが主)
中部:ON READING
東北:BOOKNERD

 

オフショア第一号・書影

 

冒頭試し読み「はじめに」『個人メディアを十年やってわかったこととわからなかったこと』

新しい小冊子『個人メディアを十年やってわかったこととわからなかったこと――オルタナティブ・ネット・音楽シーン』を6月21日に発行します。つきましては、冒頭に書いた「はじめに」を全文公開します。「続きを読む」からご覧ください。

 

書店で取り扱いを希望される方は、お気軽にご連絡ください。連絡先は、 info.offshoremccアットマークGメールです。

 

offshore.thebase.in

 

*もくじ*

  • オルタナティブについてわかったこと――形骸化するオルタナティブと、仕事化されないオルタナティブ        
  • ウェブやSNSについてわかったこと――エコーチェンバーのネットにちょうど良いサイズの社会を求めて    
  • 日本の音楽シーンについて、わからなかったこと――興行ビザ/ツアー収支とギャラ定額制/対バン文化 
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上海ロックダウンとSNS

最近WeChatタイムラインを見ていると、あんぐりと口をあけてしまう。地方都市の中の上クラスのレストランで赤ワインを嗜んでいる友人の写真が流れてきたり、即興音楽のライブ映像が流れてきたり、ライブ情報の告知記事が流れてきたりもするなかに、ロックダウン中の上海での過酷な現状を訴える記事、写真、動画が挟まれる。

 

北京で冬季五輪が開催された2022年2月、その前後を含めてこの1年ぐらい、深刻で衝撃的なニュースが多い中国。鎖に繋がれた女性の抖音動画を発端とした人身売買問題は、もともと農村の女性が置かれてきた環境を浮き彫りにし、男尊女卑と人権軽視にまみれた農村社会に憤怒し改善を試みる人たちが立ち上がり、たくさんの記事やその後のレポートが書かれている。私の友人の一部は、そういった記事を熱心にWeChatでもシェアしていた。

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感情あふれる4月の日々

4月1日から勤めに出ているのだが、前回書いたことがまったく自分にとって役に立っていなくて笑えるほどである。レジリエンスとかアサーションとか、ああいったセミナーを受けてきた失業期間の成果が見られない。さっそく、久々の勤めにイライラしたりウンザリしたり。

 

ただ、そんな自分を若干引いた視点から見ることはなんとかできているから、ほんの僅かな成果はあった、と言って良いのかもしれない。今日は一日休みでいろいろ散歩しながら考えてしまったが、たぶん、またまもなく私は勤めることをやめてしまうんだろう。

 

その、若干引いた視点とは何か。

私は、常に「情」でものごとを見ているのだ、ということが見えてきた。

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我なりの自己啓発について

好久不见!

年度末。この年度末、実は見事な同時進行で2本、大学関係の冊子編集を担当して、2月からつい数日前まで根詰めておりました。ひとつは大学内のみで配布される冊子ですが、もうひとつのほう(こちらは最終的に190ページでしたね……)はまもなくどこかでPDF版も公開されるかと思います。そしてまもなくまた新年度、4月がやってくる。

 

この1年は、流行りの言葉ではデトックスと言うのか、厄祓いなのか、身体と精神をつくりなおすような期間だった。下調べ不足でのフルタイム就職→無残に惨敗→不眠を背負って休職・退職。それからは失業状態。失業状態ももうすぐ終わってしまうが、以前の自分らしかった生活スタイルと同じく、週3程度でパートに行き、あとの時間は自分のことをする。自営業&パートの兼業をやることにした。きっと、オフショアも4月以降はしっかり動かせることでしょう……。4月にはいるとさっそくひとつのおしらせを打つ予定。

 

大学関係の冊子づくりで忙しいなかでも、「ああこれブログに書き残しておきたいな、いつ死ぬかわからんし」と思っていたことが、今書いている「我なりの自己啓発について」である。

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2022春晩に関しての若干の意見(包摂、コンテンポラリーと伝統、旧来型家族観)

このタイトルをつけたかっただけ*1のブログ記事となるが、2022年春晩のミニ・レポートを。

 

春晩とは、中国で毎年旧正月の前夜(つまり大晦日)に開催される、ステージ・パフォーマンスを集めた番組。歌あり、喜劇あり、相声(漫才のような2人の掛け合いしゃべり芸)あり、踊りにマジックに、京劇などの伝統劇のパフォーマンスも、とにかく何もかもがこの4時間ぐらいの番組で見られる。


しかし、なんだかこの数年は年に何回も春晩的な豪華絢爛、大盤振る舞いの舞台演出中継を、中国の動画サイトかCCTVで見ているような気持ちになる。思い出せば、昨年2021年7月1日、中国共産党誕生100周年の日にも、春晩ではないがお祝いの番組が盛大に開催された。そして、2021年10月1日の国慶節も、何かこういった演出の中継はあったんだったっけ? アンディ・ラウが3Dの牛といっしょに踊り歌っていたのは、2021年の春晩、もう1年もまえのことなのか……。

 

youtu.be

 

今もう一度この動画を見返すと、昨年の春晩のほうが今年のそれよりも、ぐっと豪華だったような気もする。

*1:Googleに「若干意见」と入れて検索ボタンを押せば、「(略)若干意见」とタイトルの付いた中国の行政文書がやまほど出てくる。日本語の意味とほぼ同じで、私は「若干」という言葉が公的な文書のタイトルとして使われるのが面白いなあと思ってなぜか気に入っている。一番有名な中国における「若干」文書は、「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」こと、「中国共产党中央委员会关于建国以来党的若干历史问题的决议」だろう。

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犬を怖がる - 犬との一週間(3)

普段あまりYouTubeを見ない私にも、犬のおかげでついに推しチャンネルができた。遠藤エマさんの『エマ犬(けん)アカデミー』だ。ドッグトレーナーである遠藤エマ先生は、横浜で犬のトレーニング教室を主宰しているらしい。明るく楽しくハキハキした声。たまに、遠藤エマ先生は犬の物真似をする。ロープやおもちゃを使って犬と「引っ張りっこ」をしたときにだんだん興奮してきた犬が本能を思い出して唸りはじめる様子を真似る。また、仔犬やまだ若い犬がブラッシングのとき、そのブラシや人間の手にじゃれてだんだん興奮して甘噛みしようとする様子も真似たりする。例を挙げたこの2つ、どちらも私は犬との1週間の生活の中で経験しており、遠藤エマ先生が(人間なのに)ここまで犬の物真似がうまいことにおどろいた。犬にそっくり。うまい。そう、そう、そう、私がお世話していた犬も、遠藤エマ先生の犬真似と同じような動き方と唸り方を出していた。


また、おそらく遠藤エマ先生自ら描いていらっしゃると思われる、スライド中の絵も非常に好感が持てる。一世を風靡した「いらすとや」やフリー素材を使わずに、擬人化した犬の気持ちを巧妙に絵で表している。思惑通りに飼い主の気を引くことができてガッツポーズする犬。ケージやサークルに閉じ込められることを拒否し自由を求めてデモ運動真っ最中のハチマキまいた犬。犬の体を忠実にデッサンした絵ではなく、デフォルメされていて、ポップで、どちらかというと子供が描いたような絵。毛むくじゃらの丸くて茶色い、お世辞にも上手いとはいえない絵。笑ってしまいそうなのだけれど、どうしてかこの絵も、非常に心打たれる。


そんな遠藤エマ先生は、自己紹介のYouTube動画では「しつけという言葉があまり好きじゃない」という。犬に言うことを聞かせるのではなく、犬の習性を飼い主がよく理解し、話すことのできない犬の行動やしぐさや変化をしっかり観察する。そうすることで、犬の気持ちを理解できるようになり、犬と人間のあいだの齟齬をなるべく減らし、犬も人間も幸せな共同生活が送れるようにする。ドッグトレーナーという肩書きの遠藤エマ先生ではあるが、犬にトレーニングさせるということはあくまでも人間側からの視点であること、そしてどんな犬だって楽しく幸せな生活を送りたいと願っていることを認識させられる。この世に生まれた動物にとって当たり前のことだ。苦しいことや恐怖や悲しみからは距離を置き、楽に、自然に、愉快に生きる。犬も猫も愛玩動物といわれるが、人間にかわいがられるために自ら好んで犬や猫として生まれたわけではない。彼ら彼女らに「愛玩」という役割をはめるのは人間だけである。

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