2022春晩に関しての若干の意見(包摂、コンテンポラリーと伝統、旧来型家族観)

このタイトルをつけたかっただけ*1のブログ記事となるが、2022年春晩のミニ・レポートを。

 

春晩とは、中国で毎年旧正月の前夜(つまり大晦日)に開催される、ステージ・パフォーマンスを集めた番組。歌あり、喜劇あり、相声(漫才のような2人の掛け合いしゃべり芸)あり、踊りにマジックに、京劇などの伝統劇のパフォーマンスも、とにかく何もかもがこの4時間ぐらいの番組で見られる。


しかし、なんだかこの数年は年に何回も春晩的な豪華絢爛、大盤振る舞いの舞台演出中継を、中国の動画サイトかCCTVで見ているような気持ちになる。思い出せば、昨年2021年7月1日、中国共産党誕生100周年の日にも、春晩ではないがお祝いの番組が盛大に開催された。そして、2021年10月1日の国慶節も、何かこういった演出の中継はあったんだったっけ? アンディ・ラウが3Dの牛といっしょに踊り歌っていたのは、2021年の春晩、もう1年もまえのことなのか……。

 

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今もう一度この動画を見返すと、昨年の春晩のほうが今年のそれよりも、ぐっと豪華だったような気もする。

 

さて、今年2022年の春晩は1月31日の北京時間20時から開催された*2。まもなく北京冬季オリンピック開催なので、冬季五輪関連の演目もあった。ちなみに、北京冬季五輪の開幕式は、2008年の北京五輪開幕式と同じく、張芸謀が演出を担当。本日2月4日、北京時間20時から。


昨年と同じく3D効果もふんだんに使われて、やっぱり最新の中国の番組は見ていて驚くことが多い。ざっくりと全体を通して見たうえで、気になったのは以下の3つ。

 

包摂

日本でも「社会包摂」という言葉がよく文化芸術、特に公的な助成金を使って開催されるイベントやプロジェクトで声高に叫ばれているが、中国でもずっと前から、「包摂」的なテーマがこういった大きな番組では取り上げられる。特に今年は、「方言」と「民族」への意識が強い演出だったように思う。現地の言葉のみで最初から最後まで歌い上げる歌も多かったし(字幕なしなので、その地域以外の人はわからないはずだ)、相声や司会のアナウンサーが広東語を取り上げたシーンも多かった。普通話だけではなく、中国にはあらゆる方言がある。また、漢民族だけではなく、中国にはあらゆる民族がいる。それを言いたげに感じる演出や場面がいくつもあった。

 

コンテンポラリーと伝統

毛丹青さんもTwitterで書いていらっしゃったが、今回の春晩は、とにかくこの演目がもっとも素晴らしかった。

 

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中国東方演芸集団による『只此青绿』。千里江山図卷の世界を、ダンスで表現したという。こういったベタベタのテレビ番組にしては、えらく「芸術寄り」な演目。「領舞」(リードダンサー?)は、1992年生まれのダンサー、孟庆旸。
中国の伝統楽器である古琴をモチーフにした音楽。宋代の中国画の色彩や視覚バランスを取り入れた衣装と、現代舞踊。
この舞台作品が好きかどうかは見た人それぞれの感じるところによるが、それでも、やっぱり私はこの、若い人たちが伝統的な母国の文化イメージを堂々と現代的なものと混ぜていくセンスと、その試み自体に、感心する。かといって、

日本で同じような「伝統×現代のコラボ」が生まれたとき、何かしら違和感を感じることが多く……。あの違和感はいったいなんなんだろう。
中国の人たちがさらっと成し遂げてしまう配合感覚。どれだけ中国文化を学んでも、完全には理解できないもの、のような気がする。言葉にならない感覚でもどかしいのだけれど……。

 

両親からの「結婚は?」への返し方

中国では春節といえば里帰り。里帰りといえば親孝行。親孝行といえば、結婚し、孫を見せること。というような、ありきたりな家族像もまだまだ根強くありながら、それでも、いろんなところで80年代以降生まれの人々の、新時代の生き方の模索はある。そして、そういった親や祖父母からの家族像の押し付けへの抵抗がテーマやきっかけとなった作品や、結婚しない自由を守り切る若者の意志が滲み出た作品は、中国ではもはやめずらしくない。

とはいえ、春晩は、日本で言うところのNHKである公営放送が放映している番組であり、どちらかというと「家族一緒に過ごしましょう」「家族は大切にしましょう」「親孝行しよう」「家族はあたたかい」というようなイメージがふんだんに散りばめられている。

そういう前提で、今年の春節を見てて「これは!」と思ったのが、中盤にあった、大张伟と王勉による、「音乐脱口秀《快乐气氛组》」。ちなみに、音乐脱口秀とは、日本漢字では音楽脱口秀と書き、脱口秀の中国語普通話読みは、トゥォコゥシゥ。これ、トークショウの当て字である。すごい! つまり、「音楽トークショウ」のことで、その名のとおり、音楽を取り入れながら、軽快なトークをしていく、というもの。(どんなやねん、と思うだろうから、下に動画を貼る。)

 

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この動画で私が「これは!」と思った部分は、途中。動画の54:25あたりからこんなやりとりがある。
春節に実家に帰って親に『結婚は?』『彼女できた?』と聞かれたら、こう答えよう」
「这(zhe)………」

Zhe…というのは、日本語の発音にはどうしてもない音なのでピンインそのままで記したが、「これ」あるいは「This」という意味の言葉で、まあおそらく、这の一文字だけ言って母音で伸ばして考え込む、なんていうこの言い方は、「うぅぅぅぅぅんとーーーー」「えーーーーーーっと、、、、、」というような意味に近いと思う。

日本の感覚では「それの何が驚きに値するのか?」と思われるかもしれないが、国営放送で、80年代以降生まれが、中国の旧来型家族観に対して、言葉を詰まらせることでその場を逃げることをユーモアをもって提案する。お笑いの瑣末なネタで、しかも逃げという態度ではあるが、あまりにも屈強で巨大な中国の旧来型家族観に、若干の抵抗を示そうとしている、と捉えてもいいのではないか? それに、国営放送の場だからこういった抵抗しかできないに決まっているのだ。

ちなみに、大张伟は、10代半ばにパンク・バンド「花儿乐队」のギターボーカルとして小さなライブハウスで音楽活動を始め、当時シーンの中での最年少バンドとして注目を集め一気に有名になり、現在もソロで音楽活動をしながらタレントとしていろんな番組の司会やトークゲストとして活躍している。2018年頃に配信されていたインディーバンドの格付けランキング人気番組「乐队的夏天」では、2期とも、パーソナリティを務めた。

 

それにしても、昨年のアンディ・ラウの豪華さに比べれば、やっぱりちょっと今年の春晩は地味だった気もするが、それはきっと、春晩からたった4日後に北京冬季五輪開幕式が控えているからだろう。本日、まもなく1時間後に開幕。こちらについても、また後日しっかりめのレビューを書きたいと思っている。

 

虎虎生威!吉祥如意!

 

*1:Googleに「若干意见」と入れて検索ボタンを押せば、「(略)若干意见」とタイトルの付いた中国の行政文書がやまほど出てくる。日本語の意味とほぼ同じで、私は「若干」という言葉が公的な文書のタイトルとして使われるのが面白いなあと思ってなぜか気に入っている。一番有名な中国における「若干」文書は、「建国以来の党の若干の歴史問題についての決議」こと、「中国共产党中央委员会关于建国以来党的若干历史问题的决议」だろう。

*2:プログラムはこのリンクから見ることができる。

http://www.news.cn/2022-01/30/c_1128317957.htm