パーティー51で感じた情報ヒエラルキー

東京、京都、大阪、広島、松本、浜松、山形、札幌、那覇。パーティー51はこの9都市で上映した。こうやって数えてみれば、たった9都市か。もっと回ったような気分だったのだけれど。その土地の美味しいものに出会えたことは、自慢するに値する。札幌のメフンという酒のつまみやカレー、山形の芋煮にラーメン、松本の蕎麦と寿司、浜松のブータンやさわやかなどがお気に入り。また、各地のオーガナイザーや会場の方たちとの出会いは、非東京人としてたくさん学ぶことがあったうえに今後もそれぞれの地に行けばその人たちと会えることがとても心強い。あと、ちょっと気づいたことがあった。

2013年頃からなんだかんだで年に1本ぐらいのペースでアジアの誰かの小規模な日本ツアーを組んでいる。ツアーを組むときやイベントを数都市で行なうとき、東京から情報を発信させる手法を私は意識していた。まずは、東京でしっかりと宣伝をして話題をつくって、東京の話題を地方に伝播させる。ツアーの幕開けも東京であることが一番いいのではないかと思っていた。東京で話題になったものは、地方でも集客しやすい。東京で見た人がTwitterや何かしらSNSに書いてくれて、それを見た地方の人たちが気になって来場してくれる、と。ただ、最近はそれがあまり功を奏さない状況になってきているような気がするのだが、小規模なツアーオーガナイズをしている他の人たちはどうなのだろう?

少し前までは、カルチャー系の情報ヒエラルキーはトップに東京があって、そこから大阪や福岡、大都市に枝分かれし、その先、また地方の小都市へと枝分かれしていた。雑誌が繁栄した時代は、多くの雑誌編集部が東京拠点だったのだからもちろんそうだったわけだし、また、ネット時代になったとしても、やはり情報の元締めは東京だったと思う。東京の人たちが器用にネットを使いこなし、そこで話題をつくって地方にも伝わっていた。しかしここ最近、いつ頃からか、ゆるやかにその情報ヒエラルキーは解体されてきているように思える。それぞれの地は東京と実線で結ばれておらず、その代わりに無数の土地と点線で結ばれているようなイメージ。昔、教科書で見た脳内シナプスの図に近いイメージかもしれない。

ネット上の情報が飽和して、おそらく、多くの人が情報に疲れてきている。疲れた人たちは、毎日膨大なタイムラインを眺めて自分が興味のあることを見つけるよりも、やっぱり、見える相手を頼りにして情報を得ている。情報を取捨選択するところまでたどりつかない。とにかくネット上の情報は流されるし触れる前に疲弊している。情報の優位性がなくなり、東京も片田舎も情報発信において対等であり、もしかしたら今はツアーオーガナイザーにとっては刺激的かつ困難な時代になったのかもしれない。

映画『パーティー51』のツアー宣伝においては、私はうっかり東京のメディアにプレスリリースを出すことを忘れていたりして、草の根作戦ばかりやっていたし、地方は地方のオーガナイザーに頼りっきりだった。しかし、カルチャー系情報ヒエラルキーの崩壊現象を考えると、草の根でやっていて良かったんだと思うし、地方のオーガナイザーに頼ることがベストだった。

イベントを打つのは、私にとっては東京が一番やりやすい。人口が多い。アジアのニッチな事象に興味を持っている人も多い。インターネットで情報が伝わりやすい。自分が東京にいなくても、それなりに集客ができる。それは、2012年頃に定期的に東京でイベントを行なってコツを掴んだからでもあるし、それはとても掴みやすいコツだった。現代の至極便利な道具インターネットで、ある程度なんでもできる。ただ、地方はそうはいかない。それぞれの地のオーガナイザーや会場スタッフの協力なくしては、情報がその地の尖った人たちに伝わっていかない。地方はリア充。対面でないと伝わらない。必死にwebやSNSで告知展開や宣伝企画をつくったとしても、また、誰か有名人がイベントを宣伝してくれて、ネット上では話題をかっさらっても、地方の力のあるオーガナイザーが丁寧に対面で周辺の人に話題をリア充空間で伝えてくれる方が強い。地方においては、対面での告知が確実な集客につながる。

いや、たらたらと書いてきたが、こんなことは、もしかしたらツアーオーガナイザーのなかで私だけが最近気づいたことだったのかもしれない。今さら気づいたのか、と言われるような話なのかもしれない。けれど、第二の都市大阪に長く暮らしていた身として、やはり今までの自分は東京発信の情報が最先端であり中心だと思っていた節があったし、沖縄に引っ越してきたことと今回の気づきが重なって、地方で生きる人のたくましさをやっと実感できた気がするのだ。

ただ、自分が今後、その地方リア充宣伝方式にすっぽりとはまることができるかと言えば、ちょっと辛いなあと思う。イベントをやるうえでの極意なのだけれど、イベントを企画するときからある程度集客や盛り上がりは決まっていて、パズルがうまく全てはまればきちんと成功するし、ひとつでもパズルピースがはまらなければ、ぜんぜん成功しなかったりする。とにかく、イベントはバンバン打つのではなくて、着実に、やるべきときにやるべきことをやるようにしたい。そのやるべきことをタイミング含めて選ぶ感覚は常に尖らせておきたい。

2020年11月noteより移行