デイジョブと生活と収入の均衡

求人情報をよく見るようになると、必然的に脳内で自分の経験や職歴、やりたいこととやりたくないこと等の棚卸しが脳内で行われる。ときたま本当に思い出したくない昔のことも思い出してしまったりして、鬱屈とした気分になる。早く、新しい生活始まれ。新しい仕事と、満足できる収入と、バランスのとれた生活時間の配分。喉から手が出るほど欲しい。

 

 

 2010年代は、とにかくOffshoreを立ち上げて自分の活動を続けていくなかで、いかにデイジョブの時間を減らしつつも生活できるだけの収入は確保するか、ということを考えていた。フルタイムではなく週3から週4程度の非常勤あるいはパートタイムの仕事を探し、自分の時間を確保する。確保した時間で、東アジアを調べ、東アジアに渡り、日本でまだ知られていない東アジアの情報や人を紹介し、東アジアを書く。

 

この生活を2020年代も続けていくんだと思っていたけれど、どこかで無理をしているような気がし始めていたのは1、2年前からだったろうか。週5で正社員で働いていてもバンドを続けていたりアーティスト活動をやることができている人がいる。そういう人には、きちんとボーナスも含まれた給料があって、きちんとした生活ができていて、ランチの800円とかには悩んでいなさそうだし、バンドやアーティスト活動への出費もさほど気にならず、ストレスなく兼業生活を楽しんでいそうに見える。もしかしたら、隣の芝が青く見えているだけかもしれない。けれども、月に手取り11万円〜13万円ぽっきりで、家賃はいっちょまえに5万円ぐらいするし、これって完全に貧困生活というか、常にお金のことが頭にあり、健康によろしくない。

 

Offshoreとしての収入がきちんと月5万円ほど確保できているならそれでも問題ないのだろうが、安定しないし、今後自分が市場にウケることを活動としてやっていけるとは思えない。相当な資本主義嫌い、金嫌いだから。ついついお金が回らない方向に興味が向いてしまう。

 

とはいえ、金はなくても時間があれば、人生は豊かになるのかもしれない。それなのに、自分と言ったらなかなか規則正しい生活ができず、くだらないSNS閲覧に費やしてしまった無駄な時間が多すぎる。(けれどWeChatと微博の観察は、Offshoreの業務上は必須。)朝起きて、出かける状態になれるまで、出社という緊迫した予定がなければついつい時間がかかってしまう。放っておけば起床から外出まで2、3時間がかかる。

 

そういえば週5日間のパートをしていた時期もあって、そのときは毎朝9時から17時15分まで働いていたのだったか。Offshoreを始めた頃が、その仕事だったと思う。起床しそれなりに急いで準備をしバイクかチャリ、あるいは徒歩で駅に向かい、通勤電車に乗って、降り、歩き、出社。夕方まで働いて、帰宅のついでにスーパーに寄ったり寄らなかったり。自宅で夕ご飯を食べるとまだ19時半か20時ぐらいで、そこからネットニュースを見たり情報収集したり、記事を書いたり、次のプロジェクトのメールのやり取りをしたり。有休も活用できて、あの生活、今考えると結構よかったなあと思う。そして、仕事の内容が自分のやりたいことではなかったし、Offshoreも音楽も関係なかったのがよかった。頭の切り分けがスムーズ。通勤、退勤という移動の行為で、脳がきっちりモードを移行してくれる。昼は、生活費のために割り切った時間を過ごし、夜は自分のやりたいことのために濃密な時間を過ごす。もちろん、夜の方が頭が回転する。

 

最近は、アートマネジメントとかいう(普通に事務とか企画とか総合職って言えばいいのにと思う、クソくだらないカタカナになるから本質がぼやける)仕事に携わってきたけれども、微妙にその空間がOffshoreと重なるため、脳の切り替わりがうまくできず、良くなかった。かと言って、Offshoreでやりたいようなことはできないわけだし。それに加えて、毎日が平凡な日常ではなく、常にイレギュラーと戦うような状態も精神にかなりの負担がかかった。そしてそれが週5ではなくあえての週3だったのも、またきつかった。週3でできるわけないんだよね、フリーランスや365日体制で働いている人たちとの調整作業が。それでも私は被雇用者で労働者であるから意地でも週4日は休もうとしたけど、頭の中は残りの4日間もしょっちゅう仕事に意識を持って行かれてしまった。

 

仕事内容とは距離を置いた、冷静な、労働者的な、働き方をしたい。それをしようとすると、この"アートマネジメント"界隈の人たちは情熱がすごいから、冷たい目で見られてしまったりすることもある。けれど、雇用契約にはそう書いてあるから仕方ないんですよね。週4日間は仕事のことは考えてしまってはいけない。

 

仕事や生活、デイジョブと自分のやりたいことのバランスについては、なかなか自分の正解が見つけられなくて、友人や尊敬する知人の意見を取り入れてみたりする。この人が言ってるからきっといいんじゃないか、と思って。ただ、やってみるのは自分の判断だから自分の責任になるわけだけれども、やってみるときにどんなことが起こるか、また、やってみて実際どんなことが起こっているか、冷静に分析しておくほうがいい。それを端折ってしまい、毎回エラーや壁にぶち当たって軌道修正する作業にかける労力が、そろそろ年齢的にきつい。

 

私は2010年代において、いくつかの模範例を見て、週5で働かない、を実践してきたけれど、お金がなくなればすぐにストレスが激増し不安に苛まれるので、まずは収入をきちんと確保することが、時間の確保よりも大事である。何年もかけてやっと導き出せた解答。加えて、2010年代中頃まではそれがしやすかった、ということもある。消費税は5%とかだったと思うし、年金も数千円安かった記憶がある。生活コストが上がっていて、賃金がそれに応じた額で上昇していないという社会の問題もある。

 

また、Offshoreを始めた頃は、確かフリーランスにと言うか、東アジアの文化を紹介しながら食っていけるのが成功だと思っていたけれど、今は全然そう思わない。というか、どうしてやりたいことで食うことがひとつの正統で正解のように思われているんだろう。たまに人と話していて、「フリーランス至上主義」や「やりたいことで食うのがかっこいい」みたいな考えに出会うと、さぁーっと気持ちが引いてしまう。

 

素敵なエッセイを書かれているメレ山メレ子さんは、Twitterのプロフィールに「文筆活動もする勤労女性」と書いていらっしゃる。デイジョブを持ちながら自分の活動を続けること、とてもかっこいいと思う。そしてデイジョブは別に誇れる職種や内容じゃなくたっていいと思う。私は地味な事務が一番好きだし。自分のことの事務はできないけど、他人や組織のための事務なら、効率と丁寧さを追求してしまう。

 

自分が心地よく生きるための時間配分と収入額を実直に計算して、それを環境とも照らし合わし、そのうえで、デイジョブとOffshoreのバランスを取らないといけない。ああ、Offshore始めてやっと10年で、こういうことが理解できるのね。とほほ。