※数字はプレゼン用スライドの番号です。(キーワードを要約して書いていただけなので省略)
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アジアン・ミーティング・フェスティバル2016、
シンガポールとクアラルンプールでのフェスティバルに参加しました。
Offshoreの山本佳奈子と申します。
Offshoreは、アジアの音楽やインディペンデントなクリエイター、
カルチャーを紹介しているウェブサイトで、イベント企画制作なども行う私のプロジェクトです。
まずシンガポール、クアラルンプールで見たことを報告して、そのうえで、私が思うネットワークの可能性について話したいと思います。
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前提として、アジアン・ミュージック・ネットワークの概要文がこちらです。
伝統的な価値観や商業主義に捉われることなくインディペンデントな活動をしている音楽家やオーガナイザーを中心とした新しいネットワークの形成を目指す。その成果は毎年開催するアジアン・ミーティング・フェスティバルにおいて発表される。また様々な要素が複雑に絡み合ったアジアの各都市の文化状況を現地リサーチを通じて理解を深め、多様なバックグラウンドを持ったアーティストたちが共に新たな音楽の可能性を追求できるようなコラボレーション・モデルを提示してゆく。
概要文のなかからキーワードを取り出すと、「ネットワークの形成」。「理解を深め」とあるので「国際理解」。そして「コラボレーション・モデルの提示」。
この3つがこの事業のゴールだと認識しています。
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まず、参加した私の立場と、行ったことを説明します。
第一に、演奏する側でなく観る側として参加しました。
かつ、舞台裏も含めて計4日間の行程に立ち会いました。
私がこの4日間で行ったことは、
現在ウェブサイトで公開されているアーティストへのインタビュー、
日本から参加した若手アーティスト3名への非公開でのインタビュー、
数名の観客へのインタビュー、
そしてレビューと報告書の執筆も行いました。
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アジアン・ミーティング・フェスティバルの数値での結果もお伝えします。
シンガポールではThe Projectorという会場で2日間開催されました。
売れたチケットの枚数は、
1日目が101枚。
2日目が100枚。
クアラルンプールではLive Factという会場で開催され、
85枚のチケットが売れました。
メディアへの掲載数は、
シンガポールが11件、
クアラルンプールが3件。
どちらもウェブメディアがが中心です。
参考に。
シンガポールでは、こういった実験音楽や即興音楽のイベントは、
Artistryという場所でよく開催されますが、会場の規模も小さく、
概ね20名から50名程度のお客さんが来ることが普通です。
クアラルンプールでは、FINDARSという場所でよく実験音楽のイベントが行われます。
こちらも小さいですが、
概ね、15名~30名の観客が来る、というのが一般的です。
これと比べれば、とても動員が良かったと言えます。
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毎日、公演の終了後、観客数名にインタビューをとりました。
一部を紹介します。
まずポジティブな反応を前半に。
他のフェスティバルと違っていて素晴らしい、や、刺激になった、など、主に新規性に言及する感想。
あとは音楽家の個性を賞賛する感想。
そして、このようにマイノリティとも言える音楽ながらも観客が多かったことを讃える感想ですね。
そして、ネガティブな感想もありました。
こういった音楽がわからない、という感想。
個性が見えなかった、という感想。
アジア各地から来ている音楽家だけれどそれぞれの文化的背景が見えなかった、という感想。
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また、参加していた日本人の若手アーティスト3名にも感想を聞きました。
まず村里杏さん。
彼女は、映像とのコラボレーションによって、音楽以外とのコラボレーションの可能性を試したくなったと。
次に、郡山の荒川淳さん。
彼は、英語があまり話せず、また3日間のショウケースにおいて、
最終日にやっと自分を思いっきり表現できたように見えました。
彼は、この3日間で悔しい思いもしたらしく、
自分の音楽表現、音楽制作を考え直す機会になったと言っていました。
そして、すでに海外に良く足を運んでいる、牧野タカシさん。
彼は、これまで海外に行くときはヨーロッパがほとんどだったそうですが
今後はアジアも積極的にリサーチをする決意をしたとのことでした。
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この3名のその後の行動をもう少し追ってみます。
まず、荒川淳さんと、村里杏さんにおいては、
アジアン・ミュージック・ネットワークの概要文のキーワードでもある、
「国際理解」という点において自身で深める機会になったんじゃないかと思います。
荒川淳さん、studio tissue boxというスタジオを郡山で運営していますが、
12月31日のツイートでは、「来年はスタジオで英会話と音楽のイベントをやるかも」と。
村里杏さんは、私がシンガポールやマレーシアで話している間に気づいたのですが、
まだとても若いので、アジアの地域において、知らないことがたくさんあったようです。
具体的には思い出せないのですが。
そういった、国際的な「気づき」をもたらせることができたんじゃないかと思います。
また、同じく概要文にある「ネットワークの形成」という部分。
これは、牧野さんがまさに今新しい独自のネットワークを作り始めているようです。
アジアン・ミュージック・ネットワークの、
さいたま大宮でのイベントでコラボレーションした、
タイのArnontと、今一緒に映画を作ろうとしているとのことです。
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概要文には、あと、「コラボレーション・モデルを提示していく」という言葉も出てきます。
この点、私は、この3日間で見つけづらかったところです。
まず、コラボレーション・モデルとは一体どういうものなのか、という点。
観客からいくつかネガティブな感想もありましたが、
あと、3日間見ていて思ったのですが、
1日目より2日目、3日目のほうが、
音楽家同士がコミュニケーションを重ねていくので、
演奏自体が面白くなっていきます。
初日は、何かギクシャクしているような。
大人数で即興演奏することがコラボレーション・モデルなのかどうか、ちょっと私はわかりませんし、
イチ観客としては、もっと、今までになかったコラボレーションを見てみたい気もします。
そこで、ちょうどシンガポールのアジアン・ミーティング・フェスティバルに来ていた、
東京の音楽イベント情報を発信しているウェブサイト「ト調」さんのツイッターを引用します。
「ミュージシャン同士は、DIYなネットワークで、地域を超えてつながる。
オーディエンスは地域でつながり、(地域の中でつながり、という意味ですね)
つながりの外にいる人には何も見えない。
だいたいそもそもオーディエンスはそういうものだ。通過するだけだ。」
なんとなく、ト調さんのツイッターの意味もわかるような気がしたんです。
私たち観客は、このネットワークにどうやって参加することができるのか。
観客は、何を得ることができるのだろうか。と。
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そこで、私もOffshoreというプロジェクトでネットワークというものを意識しているので、
今後のネットワークのあり方についてちょっと考えてみました。
より強くて、広い、ネットワークを構築するためにはどうすればいいのか。
最近では、アジアセンターが設立されたこともありますし、
日本中のあらゆる文化プロジェクトで、「アジア」が頻繁に登場します。
私が気にかかっているのは、みんな、「スタンプラリー」のような、
名刺交換して、Facebook友達になって、Instagramフォローして、
というような、
スタンプラリーのような行動だけで、
ネットワークを作れた気になっていないかという点。
ネットワークを形成するとき、
本当に強いネットワークにするには、
やはり、共同制作や、同じプロジェクトを一緒に行う、というような、
共同作業が重要になってくると思います。
アジアン・ミーティング・フェスティバルの場合は、
この3日間で出会ったアーティストたちが、
今後、お互いにツアーの企画をして招聘したり、
アーティスト同士が自発的に動いて、一緒に録音をしてみたり、
そういうコラボレーションが生まれれば、いいなと思います。
そういったことが起こってくれば、アジアン・ミーティング・フェスティバルの価値がとても高くなると思います。
また、先ほどの「ト調」さんのツイートにつながりますが、
プロジェクト内部の人たちに関係なく、
アジアン・ミーティング・フェスティバルを介して、
外で勝手にネットワークが広がることも可能性としてはあるんじゃないでしょうか。
例えば、観客同士がその場で繋がったり、
アジアン・ミーティング・フェスティバルに来た音楽関係者同士で何かアイディアが生まれたり、
違う業種の人、例えばメディアやジャーナリストがアジアン・ミーティング・フェスティバルにやってきて音楽家たちと接したり。
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例えばの例ですが、Offshoreで最近経験した例を紹介します。
韓国の音楽ドキュメンタリ、『パーティー51』という映画をもう2年ほど日本全国で上映しています。私は個人ですが、配給のような役割をしています。
先日、パク・クネ大統領のスキャンダルにあわせて、
自主上映を一定期間だけ安くしました。
そうすると、全国いろんなところから手が上がって、いろんな人が自主上映をしてくれました。
自主上映をしてくれた各地の人たちが、私の知らないところで勝手にネットワークを作っていたんです。
韓国から直接、映画に関連する音楽家のCDを仕入れて、
各会場で販売できるようにやり取りしていました。
東京会場が終わったら、余ったCDを名古屋会場に送って、という段取りを、
みなさんが私を介さずに勝手にやっていたんです。
とても面白いし、ネットワークが一気に広がったんだと思いました。
また、この映画は、札幌では「湿った犬」というデュオの音楽家が上映してくれて、
その情報を知った、「湿った犬」と共演経験のある岡山の音楽家「The Noup」が、
自主上映をしてくれました。
そして、それを知った、郡山の荒川淳さんが、「The Noupも上映していたし」とのことで、
郡山で上映してくれたんです。
これは、映画という強力なコンテンツを中心として、ネットワークがぐっと広がった例だと思います。
コンテンツがあることによって、音楽家以外、観客も、ネットワークのなかに入りやすくなります。
では、アジアン・ミュージック・ネットワークのコンテンツが何か?と考えた時。
やっぱりその演奏自体や、個々の音楽家自体になるのかもしれません。
現状、十分に強力な音楽家が集まっていて、演奏も素晴らしいですから、
ファンを作り観客もネットワークに入れ込むことは、
何らかの形で可能なんじゃないかなと思うんです。
今は具体的にはわからないですが。
そこで、今後の課題としては、
音楽家以外、つまりは、その地域のオーガナイザーや、
音楽関係者、または音楽以外の異業種の人が、
参加しやすくなる仕掛けをつくっていくと、
もっとネットワークが強くなって広がる可能性があるんじゃないかと思います。
そうすることで、公的資金を使う意義も大きくなってくると思います。
以上で終わります。
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2020年11月 noteより移行