新自由主義とアートマネージメント

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今私は2022年北京冬季五輪開会式の映像を見返している。確か当日、生でも見ていたのだが、再び見る。スペクタクル。規模がでかい。そして演出に芯がある。はっきりいって素晴らしい。立春の日に開幕した北京冬季五輪は、「中国には24節気がある」という映像から始まる。24節気の紹介映像は、立春に向けてカウントダウンしていく。ついに立春まで辿り着くと、演出した張芸謀のお得意技ともいえる大人数の演舞。緑色に光る数メートルありそうな、新芽をイメージしているであろうしなやかな棒がゆらゆらゆさゆさと、軽く百本(人)以上揺れる。

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グローバリズムと民俗祭祀――YCAM「はじめてのガチ聴き」より宮里千里さんの回を聴いて:中国地方旅行レポ01

先日行ってきた中国地方鳥取、山口へのひとり車旅行について記録。

 

YCAMで開催された大城真さん監修「はじめてのガチ聴き」9月4日の回に行きたかったので、全然車に乗らないのにまた車検に通してしまった父の車を4日間ほど占有させてもらい中国地方のいろんなところへドライブしてきた。


時系列が逆になるが、まず最後に訪れた山口のことを。

 

このYCAMのイベントの、この日の組み合わせ、とても良かった。この日の登壇者は、『オフショア』第一号に執筆していただいたエッセイストで、琉球弧の祭祀をこれまで数多く録音してきた宮里千里さん。あと、フィールドレコーディングや音を用いた作品が非常に哲学的でユーモラスな、角田俊也さん。

www.ycam.jp


翌日の勤務時間を考慮すると角田俊也さんの途中で退場しなくてはならなかったけど、話が面白すぎて結局最後まで聞いて、Q&Aの最中に後ろ髪をひかれながら退場した。
千里さんは、琉球孤と呼ばれる島々の祭祀や唄の録音を、奄美から八重山、北から南、黒潮の流れと逆方向に、トークしながら聴かせてくれた。聴かせてもらったことがあった録音がほぼなく、初めて聴く音源ばかり。また、エピソードやそれぞれの地域の祭りの話についても、伺ったことがなかったトピックがほとんど。千里さんのアーカイブの膨大さを思い知る。

 

今、そのとき取っていたノートを見返していて、ああそうだった、こんな話をされていた、と思い出すけれども、ノートに取っても取らずとも一番衝撃的だったことは、「琉球孤という呼び方は島尾敏雄さんが最初のようだ」ということ。島尾敏雄さえもきちんと読めていない自分が”編集”なんてやってしまって、いいのでしょうかね……

 

千里さんがこの日会場で聴かせてくれた録音の祭祀は、ほとんどがもう、執り行われないものだ。千里さんによる「録音する」「次代にその音声を残す」という行為がそもそも、「消えゆくもの」への応答として成立している。東南アジアの大衆音楽を掘り世界に広めてきたアメリカのレーベルSublimeFrequanciesなどの例を鑑みれば、千里さんがこれまでとりためてきた貴重な録音群は、その日時データや地域データとともにもっとどんどん広く公表されるべきかもしれない。昨今の「コモンズ」や「オープン」という考え方が民主主義的思考から生まれたように、自分の手で行った仕事を次代に繋ぐためにどんどん公に放り出していくこと。それをしたほうがいい、と、千里さんはおそらく多くの人に言われてきただろうし、私も何かの拍子に何度も言ったような気もしないでもない。


しかし、消えていった祭祀の神唄や録音を、違う年代に生き、違う地域に生きる我々が軽くポップに「聴く」ことは果たして道理にかなっているのだろうか。この場合の「聴く」は、どうしても「傾聴する」とはほど遠く「聞き流す」ことになってしまいがちである。だって、自分と関係のない地域、自分が過ごした時代ではないものであり、今生きている自分と直接関わらないものだから。自然に引き合わせられる現象ではない。科学も思想も元々は自然から生み出されたものだとするのであれば、少なくとも自然の摂理には反するような気がする。時間も地域も超え、関係あるも関係なしもごちゃまぜにして、すべてにまんべんなく情報を行き渡らせようとする観念、良かれと思ってそれを推し進め世界を平等に均質化していこうとする運動、それこそがグローバリズムだ。グローバリズムは、民主主義的な衣装をまとっている。


1978年をもって終了した「イザイホー」を我々はもう実際に見ることも聴くこともできないことを嘆いてしまうが、そもそも、ヤマトに住む私が、イザイホーの執り行われる時代に生きていたとしても、生で聴くことも見ることもできなかったのだ。それが久高島でなくとも、たとえば尼崎の南のほうの一角だけの地域で開催しているだんじりだって、その辺のイオンだかダイエーだかショッピングセンターで行われる子供向けの盆踊りだって、誰もがいつでも体験できるものではない。その時代にその場所に自分がいる。その偶然性に意味があり、さまざまな偶然性のもとにその場の個性や特徴がつくられていく。それが体験であり、地域文化や時代の差異にもつながっていく。現在商売として行われるイベントごとやお祭り、フェスティバルなんかも「その場限り」といわれ人集めがなされるが、電子データに置き換えられない情報や空気やそれらの摩擦が「その場限り」において無限に立ち現れるからこそ、人は「その場限り」を尊び、希求する。


コモンズでもオープンでもなかったその時代の、その地域の文化は、閉ざされていると表現することもできるが、自然や動物の身体的能力を素直に捉えて見据えていけば、単純に、個々の特徴や違いをそれぞれに保っている、というだけだ。


千里さんの登壇回が終了した後、会場内で数年振りにお会いしたマッピーさんこと大城真さんと、千里さんと軽く話す。大城さんが「今まで聞かせてもらってない音ばっかりでしたね」と言うと、千里さんは「どうしてもこういうのは呼んでくれた人に向けてやっちゃうからね。マッピーが聞いたことないのを集めたね」と。いかにも有機的。沖縄出身で私の何十倍も千里さんの録音を聴かせてもらってきたであろうマッピーさんの耳にこれまで入ったことのない音源をと千里さんがセレクトし、それを我々観客もおこぼれにあずかって聴けたということで、これこそが「その場限り」のありがたさ。


トーク終了後の客出し時間に千里さんが流していたのは、千里さんが大好きな平敷屋エイサーだったはず。ずっと鳴り続けるたくさんの人による指笛、高音の厚みが、沖縄のどのエイサーとも違う。

 

 

 

続きは後日。

飲食店の客層

『オフショア』発送作業がほぼ毎日のように続き、有難い限り。こういった「外に開く」意識の時って、どうしてもブログにこそっと少しだけ走り書きするような「内向きの」「取るに足らない」話題を書き残すことができなくなる。

けれど本来、人が人間の内面を見つめられるとすればそれは自分という人間の内面にしか向き合えないのであって、そこを素通りしていくとなんだか疲れてくるよね。と私は思う。一人になる時間が必要、ってよく言われるのはそういうことなんじゃないかとか。一人でじっくり鬱々と考え込む時間は貴い。

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オフショア第一号・こちらが執筆者のみなさんです👉

offshore-mcc.net

さて、8月1日(旧暦7月4日)、目標としておりました創刊日になんとか創刊できたということになります。現在、オフショアのオンラインショップでも購入受け付けておりますが、各地の書店の皆さま!ぜひ、店頭で販売していただけるとうれしいです!SNSを使わない人、ネットを普段見ない人にも届けたい。

 

それでは執筆者紹介

まず、「創刊号はこの人に書いてもらわなければ始まらないでしょう」と原稿依頼した宮里千里さん。エッセイストで民俗祭祀の採音技師でもあり、イザイホーや各地のエイサー、アジア各地の祭祀や2002日韓W杯まで(!)録りためた音にはもう途絶えた祭祀やそこでしか発生しなかった音も多く含まれます。千里さんの著作『アコークロー』や『シマ豆腐紀行』(両作ともボーダーインクより出版)は、うかつに外で読んでいたら吹き出してしまうので危険です。今回、千里さんには奄美とバリ、そして沖縄をつなぐエッセイを書いていただきました。奄美の中村瑞希さん、マリカさん、中孝介さんらのバリ島での録音。そして、先日「ちむどんどん」で上原照賢を演じた大工哲弘さんと大工苗子さんもしっかり登場。大工さんの大胆さがもう……!1980年代のバリ島、見てみたかった……!

twitter.com

 


さてここからは五十音順に。

作家の太田明日香さんには、日本語の先生という立場から詩を2篇寄せていただきました。ぜひ、じっくり味わってほしいです。現在の日本における外国人受入の状況は問題山積ですが、留学生たちが日本語を学ぶ教室の風景が想像できたとき、それらの問題がより身近に、より立体的に感じられます。

editota.com


紅坂紫(こうさかゆかり)さんは執筆陣では一番若いのですが、堂々たる濃厚な短編クィアSFを寄せていただきました。飾り気のないように見えて、読み込んでいくうちにどんどん引き摺り込まれていくような文章。何回読んでも噛みごたえのある、こんな文章ってある?と思いながら何度も編集作業中に読み耽りました。しかも、紅坂さんのキレのある文体は確立されていて、毎日書いていらっしゃる800字エッセイも読めば読むほど読みたくなる。紅坂さんの他の作品や翻訳作品(とくにシンガポールジョイス・チングによる短編SF『まめやかな娘』の翻訳は素晴らしいです)もぜひチェックしてほしいです!

6kurenai1yukari.tumblr.com

 

雑誌「トラべシア」発行人の鈴木並木さんにもエッセイを寄せていただきました。一番最後に収録させていただきました。何重にもかけられていく仕掛けというかマジックというか、あっさりと書いているように見せかけて、日本のアジア観に対する重要な指摘が散りばめられている、と、読んでいます。どうしてもこれで1冊の最後を私の代わりにまとめていただきたい、と思ったエッセイです。

travesia.booth.pm

twitter.com

 

打って変わって得能洋平さんのエッセイは、これを創刊号の冒頭に掲載させていただき、私を代弁していただきたい、と思ったエッセイです。つまり、得能さんのエッセイと鈴木さんのエッセイで『オフショア第一号』は挟まれていることになりますね。得能さんが書いていらっしゃるエッセイは、ときたまネットニュースでも話題になる西成の中国人経営のカラオケスナックと福建省が起点となります。ぜひ参考文献として掲載したオープンアクセス論文にも注目していただきたいです。

 

 

そして、五十音順の順番が前後しましたが、自主発行する「馬馬虎虎」がロングヒットしている檀上遼さんには「聞き書き」に挑戦していただきました。軽快なファミレスでの対話が「工場の李さん」を脳内でアバター化してくれるようです。ここで話される過去の台湾と日本の関係、そして日本のバブル期。特にバブルを味わえなかった私には(檀上さんと同い年)なかなか感慨深いです。

ryodanjyo.com

 

それから、ローカルメディア研究者である和田敬さんの論考。和田さんは、実際にローカルメディアであるミニFMの実践者であったとのことです。「台湾における市民による地下メディア実践と民主化との関係――1990 年代の台湾の地下ラジオ運動を軸として」というタイトルです。つまりは台湾の地下メディア実践を見ていくことで、日本でのメディア実践を考えることになります。まさに私は個人メディアを立ち上げて、大手にできないことばかりを考えてきました。そんな私の出自は、インディー音楽の裏方(ライブハウススタッフ)だったのですが、台湾の地下メディアにもインディー音楽が深く関わっていることに、とてもうれしくなりました。連載で全5回。次回以降も必読です。

 

最後に、私が構成した「dj sniffインタビュー『平行的玉音軌』ができるまで――リサーチと思考、作曲の過程をトレースする」も大推薦。
dj sniffは日本に統治されていた時代の台湾を生きた台湾人と出会い、台湾での玉音放送の受容や、玉音放送の録音・再生を担った技師(日本最初のターンテーブリスト!?)についてリサーチ。それらをもとにつくりあげた音楽と英語ブックレットからなる作品『平行的玉音軌』は2022年3月発売となりました。日本以外のアジアへリサーチにいって作品をつくるとき、日本で育った私たちが必ず向き合わなければならない過去の侵略の歴史、搾取してしまう構造についても話題が及んでいます。また、最近何かと研究者の方々に読んでいただいているウェブマガジン「Offshore」でしたが、アカデミアと創作の関係みたいなところもdj sniffこと水田さんに語ってもらっています。実は、校了してからあの安倍元首相銃撃事件があり、水田さんも私も、再度読み直し再度校正作業をしました。編集者である私は「本というメディアで他者と自分の発言を誰にでも参照できるよう残すこと」の重大さを実感できました。

discrepant.bandcamp.com

 

表紙デザイン・イラストについて

表紙のかわいらしいツバメを描いてくれたのは北京在住の刘璐(リウ・ルー)。デザイナーであり、イラストも描いていて、かつ、Kaoru Abe No Future(阿部薫没有未来)という実験ロックバンドのメンバーでもあります。「Offshore」と私が自分のメディアに名付けた理由を説明したところ、「外海(Offshore)に出るけれども、また戻ってくる渡鳥の"ツバメ"」を描いてくれました。

そして表紙デザインとタイトルロゴは、三宅彩さん。2011年頃だったか、タイの情報関連でお知り合いにならせていただき、最近は、三宅さんの出身地である神戸市に私が移住したこともあり、よく神戸の新開地〜湊川情報を交換させていただいています。私が夏に着ているTシャツは、だいたい三宅彩さんデザインです。Tシャツこちらから買えます!

noladyswears.theshop.jp

 

 

元々SNSで発信しようと思いながら書いたテキストなので散漫となってしまいましたが、ご購入、仕入れの参考にしていただけましたら幸いです。書店の方は版元ドットコムから書誌情報をご覧ください。 

https://kaiin.hanmoto.com/bd/isbn/978-4-9912649-1-7


現在お取り扱いいただいている店舗は以下。まだまだ増やしたいです!

 

取扱店舗(順不同。2022年8月1日時点)
関西:1003(センサン)、パララックス・レコード、CAVA BOOKS、ホホホ座浄土寺店、Calo Bookshop & Cafe、恵文社一乗寺店、誠光社、とぅえるぶ、奈良 蔦屋書店
沖縄:くじらブックス&Zou Cafe
北陸:石引パブリック
関東:PEOPLE BOOKSTORE、ポポタム、IRREGULAR RHYTHM ASYLUM、よもぎBOOKS、mychairbooks、loneliness books(オンラインが主)
中部:ON READING
東北:BOOKNERD

 

オフショア第一号・書影

 

冒頭試し読み「はじめに」『個人メディアを十年やってわかったこととわからなかったこと』

新しい小冊子『個人メディアを十年やってわかったこととわからなかったこと――オルタナティブ・ネット・音楽シーン』を6月21日に発行します。つきましては、冒頭に書いた「はじめに」を全文公開します。「続きを読む」からご覧ください。

 

書店で取り扱いを希望される方は、お気軽にご連絡ください。連絡先は、 info.offshoremccアットマークGメールです。

 

offshore.thebase.in

 

*もくじ*

  • オルタナティブについてわかったこと――形骸化するオルタナティブと、仕事化されないオルタナティブ        
  • ウェブやSNSについてわかったこと――エコーチェンバーのネットにちょうど良いサイズの社会を求めて    
  • 日本の音楽シーンについて、わからなかったこと――興行ビザ/ツアー収支とギャラ定額制/対バン文化 
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上海ロックダウンとSNS

最近WeChatタイムラインを見ていると、あんぐりと口をあけてしまう。地方都市の中の上クラスのレストランで赤ワインを嗜んでいる友人の写真が流れてきたり、即興音楽のライブ映像が流れてきたり、ライブ情報の告知記事が流れてきたりもするなかに、ロックダウン中の上海での過酷な現状を訴える記事、写真、動画が挟まれる。

 

北京で冬季五輪が開催された2022年2月、その前後を含めてこの1年ぐらい、深刻で衝撃的なニュースが多い中国。鎖に繋がれた女性の抖音動画を発端とした人身売買問題は、もともと農村の女性が置かれてきた環境を浮き彫りにし、男尊女卑と人権軽視にまみれた農村社会に憤怒し改善を試みる人たちが立ち上がり、たくさんの記事やその後のレポートが書かれている。私の友人の一部は、そういった記事を熱心にWeChatでもシェアしていた。

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感情あふれる4月の日々

4月1日から勤めに出ているのだが、前回書いたことがまったく自分にとって役に立っていなくて笑えるほどである。レジリエンスとかアサーションとか、ああいったセミナーを受けてきた失業期間の成果が見られない。さっそく、久々の勤めにイライラしたりウンザリしたり。

 

ただ、そんな自分を若干引いた視点から見ることはなんとかできているから、ほんの僅かな成果はあった、と言って良いのかもしれない。今日は一日休みでいろいろ散歩しながら考えてしまったが、たぶん、またまもなく私は勤めることをやめてしまうんだろう。

 

その、若干引いた視点とは何か。

私は、常に「情」でものごとを見ているのだ、ということが見えてきた。

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